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京都地方裁判所 昭和51年(行ウ)13号 判決 1981年2月27日

京都市中京区壬生御所ノ内町四五番地の一

原告

京都木平林産企業組合

右代表者代表理事

田中康夫

右訴訟代理人弁護士

安田健介

京都市中京区柳馬場二条下ル

被告

中京税務署長

島村宗治

右指定代理人

小澤一郎

西野清勝

橋本敦

高田正子

城尾宏

木下昭夫

杉山幸雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当時者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税について、被告が昭和五〇年一月三一日付でなした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、木材製品卸売業を営む企業組合であるが、昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分(以下「当期分」という。)法人税の青色申告書に、所得金額を一一九三万一一五三円、納付すべき税額を三八〇万四九〇〇円と記載して申告したところ、被告は、昭和五〇年一月三一日付で所得金額を五一七一万二六〇八円、納付すべき税額を一八四〇万六一〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税の額を六八万三六〇〇円、重加算税の額を二七万八一〇〇円とする賦課決定処分をした。

2  原告はこれに対し同年三月二四日付で被告に対し異議申立をしたところ、被告は同年六月二一日付で所得金額を四九一八万八六七〇円、納付すべき税額を一七四七万八八〇〇円及び過少申告加算税の額を六八万三六〇〇円とし、重加算税の額にについては全部取消す旨の異議決定をした。

3  原告は右異議決定後の前記1の更正及び賦課決定の各処分(以下「本件処分」という。)につき、なお不服であつたので同年七月四日国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は昭和五一年五月三一日付で右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同裁決書の騰本は同年六月二一日原告に送達された。

4  本件処分の違法性

本件処分のうち、原告が当期分の申告書に商品取引損三六一一万二〇〇〇円と記載して申告していたのを、被告が右損失は原告に発生したものではなく、原告の代表者田中康夫個人に発生したものであるとして、右損失額を否認し、これを原告の当期分の申告所得金額に加算した部分は、次のとおり事実誤認の違法がある。

(一) 原告の代表者である田中康夫は、個人名義で、昭和四八年七月二日から中井繊維株式会社(以下「中井繊維」という。)に委託して、神戸ゴム取引所の商品(ゴム)取引を開始し、同年一二月六日に取引を終え、その結果、商品取引手数料七三万八〇〇〇円を含め、総計五八〇一万八〇〇〇円の損失が発生した(以下「本件商品取引」という。)。

(二) 本件商品取引のうち、昭和四八年一〇月三一日までの取引は名実ともに田中康夫個人の取引であつたが、原告は、同年一一月一日、田中康夫の本件商品取引(当時ゴム売立分、一二一枚)を引き継いだため、同日以降の取引により発生した損益は原告に帰属することとなつた。(なお、正確な引き継ぎ時点については、後記(四)のとおり。)

(三) 本件商品取引の右引継は、昭和四八年一一月一日午前一一時、原告の理事の一人田中芳江が病気入院中の京都第二赤十字病院七一八号室において理事全員(三名、田中康夫、田中智子、田中芳江)出席のもとに開催された原告の理事会において決定されたものである。

右理会閉会直後、田中康夫は、中井繊維京都出張所に対し、電話により、田中康夫名義の本件商品取引を原告が引き継ぎたい旨申し出たところ、同出所長米田耕耘から、企業組合との取引の実例がないので検討の必要があり、直ちには応じられないとの応答があつたので、やむを得ず、中井繊維との関係では田中康夫名義のまま原告が引き継ぐこととした。

(四) 原告が本件商品取引を引き継ぐにあたつては、昭和四八年一一月一日の商品取引相場終値で手仕舞したとして計算した損失は田中康夫が負担し、右同日時に右同値で原告が取引を開始したとして計算したその後の損益は原告に帰属することとした。

そこで、原告は中井繊維に依頼して昭和四八年一一月一日の終値を調べてもらい計算したところ、田中康夫が負担すべき損失額は二一九〇万六〇〇〇円であつた。

(五) その後、昭和四八年一二月六日本件商品取引を手仕舞した結果、原告に帰属する損金は、売買手数料七三万八〇〇〇円を含め、三六一一万二〇〇〇円となつた。

5  よつて、原告は本件処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3は認める。同4冒頭のうち、本件処分には、原告が当期分の申告書に商品取引損三六一一万二〇〇〇円と記載して申告していたのを、被告が右損失は原告に発生した損失ではなく、原告の代表者田中康夫個人に発生したものであるとして、右損失額を否定し、これを原告の当期分の申告所得金額に加算した部分が存在することは認めるが、同部分に事実誤認の違法がある旨の主張は争う。同4(一)は認める。同4(二)ないし(五)は否認する。

三  被告の主張

原告は、田中康夫個人の本件商品取引を原告が引き継いだ旨主張するが、次に述べる事実に照らすと、右引継の事実は存在せず、昭和四八年一一月一日以降の本件商品取引も名実ともに田中康夫個人の取引であつて、原告の当期分の申告書中の商品取引損三六一一万二〇〇〇円は田中康夫個人の損失であるとして、原告の損金に算入することを否認してなされた本件処分に何ら違法な点はない。

1(一)  原告の記帳(保証金の総勘定元帳)による中井繊維に対する「委託保証金」の支払状況と中井繊維の記帳による「委託証拠金預り額」とを対比すると別表のとおりであり、その両者は異なつている。

また、昭和四八年一二月六日本件商店取引を手仕舞した結果、損失額は五八〇万八〇〇〇円となり、その清算のため、既に預託済の証拠金(現金)四九六〇万円のほか、不足分として現金八四一万八〇〇〇円が支払われているが、右不足分につき、原告の帳簿のいずれにもその支払を証する記載がない。

(二)  そして中井繊維の記載は領収書等に照し真実と認められるから、右対比からしても原告の記帳額が事実に反することは明らかである。もし、原告において実際に中井繊維と取引を行ない自己取引にかかる委託保証金を真実支払つたものとすれば、かかる不一致は到底生じ得ないはずである。

2  次は、原告が中井繊維に支払つたとする保証金の会計処理が、原告の総勘定元帳と、銀行帳とで全く異なる。

即ち、両帳簿の昭和四八年一一月五日一四〇〇万、同月一四日、七〇万及び同月二一日、三〇〇万円の当座預金による支払原因が、総勘定元帳では保証金として経理されているが、銀行帳では何れも田中康夫に対する仮払金として経理されている。そのうえ、原告の預金元帳には、田中康夫へ仮払金との記載を抹消して、保証金と改ざんした部分もみられるし、借方仮払金の伝票を後になつて、借方を保証金とし、貸方を当座預金とする振替伝票と差し換えた事実も存在する。仮に正確な記帳方法がわからずとりあえず仮払金と記帳したとしても、保証金と判明した時点で訂正の振替伝票を作成するのが通常の会計処理方式であり、右伝票の差し換えは、事実の隠蔽以外のなにものでもない。

3  原告主張の売買手数料七三万八〇〇〇円は、昭和四八年九月一九日から同年一二月六日までの本件商品取引の委託手数料の合計額と一致するものであり、原告が引き継いだと主張する昭和四八年一一月一日以降の委託手数料の合計額と一致しない。

4  田中康夫は、中井繊維との本件商品取引の清算を終えた昭和四八年一二月末頃、同社に対し本件商品取引を遡及的に原告との取引にして欲しい旨申し入れたが、すでに清算を終了している等の理由で中井繊維からこれを拒絶されている。

その後田中康夫は、昭和四九年三月に至り、原告の総勘定元帳の記載と一致させるため、既に同人が昭和四八年一二月一九日付で中井繊維から受け取つていた五八〇一万八〇〇〇円の商品先物取引帳尻領収証を一旦返還し、改めて同月二五日付の三六一一万二〇〇〇円及び二一九〇万六〇〇〇円(合計五八〇一万八〇〇〇円)の二通の領収証を発行するよう同社に依頼し、その交付を受けている。

また商品取引所における売買取引は、商品取引所の定める受託契約準則に基づいてなされるものであり、委託者が原告のような企業組合であつても取引条件が異なるものではなく、原告が欲すれば自己の名義で取引を開始すれば足り、ことさらに田中康夫の名義を流用しなければならない理由は何ら存しない。

5  以上のとおりであつて、原告の主張はすべて自己矛盾、自己撞着に陥つており、田中康夫個人が自己の本件商品取引上の損失を原告に転嫁しようとしていることは明らかである。

四  被告の主張に対する原告の認否と反論

1  被告の主張1(一)は認めるが、原告の記帳、中井繊維の記帳のいずれも真実に合致しているのであって、右各記帳の不一致の理由は次のとおりである。

(一) 本件商品取引を昭和四八年一一月一日の相場で清算すると売買手数料を別にして二一九〇万六〇〇〇円の損失となる。そして田中康夫が右時点で中井繊維に預託していた保証金は現金二三六〇万円と有価証券であった。従つて、右時点で本件商品取引を清算し、現実に中井繊維との間で清算金の授受等をしたとすると、田中康夫は現金一六九万四〇〇〇円と有価証券の返還を受けることとなる。そして改めて原告名義で新規の取引を開始したならば、原告は中井繊維に対し、保証金一二一〇万円(原告が引き継いだ取引は、ゴムの売立分一二一枚であり、当時ゴム一枚につき、一〇万円の保証金を必要とした。)を預託する必要があることになる。しかし、中井繊維に対する関係で田中康夫名義のまま従来の取引を承継する形にした結果、原告は右保証金一二一〇万円を預託しなくてすみ、田中康夫は本来なら中井繊維から清算として受取るべき現金一六九万四〇〇〇円と有価証券を受取ることができなくなつた。

(二) そこで原告は、便宜的に、中井繊維から要求される追加保証金(別表中の中井繊維記帳分)及びその他に本来ならば預託すべき保証金額一二一〇万円を限度額として、保証金として支出経理し、このうち中井繊維に預託する追加保証金を超える金員は田中康夫がとりあえず受領し、中井繊維との間の最終清算時に原告と田中康夫との間で清算をすることとした。

(三) 結局最終清算時までに原告が保証金として支出経理した金額は三六五三万八五九〇円(別表中の原告の記帳分合計)となり、他方中井繊維に追加保証金として預託した金額は二六〇〇万円(別表中の中井繊維記帳分合計)となり、田中康夫個人が原告から、追加保証金として預託した金員を超えて受領した金額は一〇五三万八五九〇円となった。そして、右金員から、田中康夫は、中井繊維との最終清算に当つて、清算金(保証金の不足分)八四一万八〇〇〇円を支払つたため、結局田中康夫が原告から受領している金員は、二一二万〇五九〇円となつた。

中井繊維との清算により田中康夫は保証として預託していた有価証券の返還を受けたので、田中康夫が受取るべき清算金は一六九万四〇〇〇円となり、これと原告から受領している金額二一二万〇五九〇円との差額四二万六五九〇円は田中康夫から原告に返済(現実には田中康夫への仮払金に振替)して清算した。なお、当然ながら、右清算額四二万六五九〇円は原告が保証金として支出経理した総額三六五三万八五九〇円と原告の被つた損失三六一一万二〇〇〇円との差額と一致する。

2  被告の主張2につき

当時、原告の会計帳簿の記帳をしていたのは山内喜美子であつたが、同人は昭和四八年一一月五日田中康夫が小切手一四〇〇万円を振出し(小折手の振出しは田中康夫がしていた。)三井銀行西陳支店で右小切手金一四〇〇万円を換金したことを知ったが、正確な記帳方法がわからず、とりあえず銀行帳に田中康夫への仮払金と記帳し、振替伝票には借方科目を仮払金、貸方科目を当座預金と記帳した。

後日振替伝票の借方科目の正確な記帳が保証金とわかつたので伝票を差し換えた。あわせて総勘定元帳にも保証金勘定をもうけて正しく記帳した。

ところで、とりあえず預金を引き出して仮払金を支出する振替伝票を作成した後、仮払金でなく保証金と判明した時点で仮払金を保証金とする訂正の振替伝票を作成するのも一つの会計処理方法ではあるが、本件のように、直接預金を引き出して保証金を支出する旨の振替伝票と差し換えるのも、短期に仮払金の性格が判明した場合にはむしろ自然な会計処理方法である。

さらに一言するならば原告が真に脱税のために帳簿を操作する意図があるならば、振替伝票を差し換えるのに際してナンバーリングを打ちなおしたであろう。ナンバーリングを打ちなおすのになんら技術的に困難はないのであり、振替伝票を差し換えたことがすぐにわかる手書にかえたりはしなかつたことは明白である。

3  被告の主張3につき

手数料七三万八〇〇〇円は、昭和四八年九月一九日から同年一二月六日までの本件商品取引の手数料の合計額であることは認めるが、売買手数料は商品取引をなすに当つて必ず出捐を要する固定的な経費であるから、これを原告が引き継ぐことにすることは不合理ではない。

4  被告の主張4につき

請求原因4で述べたとおり、原告は中井繊維に対し昭和四八年一一月一日本件商品取引を原告が引き継ぐから原告名義にかえてくれるよう求めたが、中井繊維から企業組合との取引の経験がないから検討を要する旨いわれたのでやむなく田中康夫名義のまま原告が本件商品取引を引き継いだのである。そして、同年一二月六日本件商品取引を終了させて清算段階に入つてからも、原告は中井繊維に清算金の支払いについて損金の支払受領証を原告宛に発行してくれるよう求めたが、中井繊維は、実体が原告との取引であるから原告宛受領証を発行できればしたいのであるが、田中康夫名義の取引になつている以上、形式にあわせるしか方法がなく、田中康夫宛領収証の発行をもつて清算金を支払つて欲しい旨申入れ、昭和四八年一二月一九日、原告事務所に田中康夫宛、金額五八〇一万八〇〇〇円の領収証を持参して清算金(保証金の不足分)八四一万八〇〇〇円の支払を求めてきた。これに対し、原告は、再検討を求めたところ、中井繊維は同月二五日再び原告事務所にきて、「昭和四八年一一月一日以後は原告から保証金が支出されているから原告宛領収書を発行できるよう本社とも研究し後日処理する。」との覚書を原告に差入れたので、同日その覚書と昭和四八年一二月一九日付の前記の領収証を受取つて原告は中井繊維に現実に清算金八四一万八〇〇〇円を支払つた。その後昭和四九年三月上旬頃、中井繊維は、いずれも田中康夫宛ではあるが原告損金分三六一一万二〇〇〇円と田中康夫損金分二一九〇万六〇〇〇円との二枚の領収証に分けてくれたので、原告はこの二枚の領収証を受取つて前記田中康夫宛五八〇一万八〇〇〇円の領収証と覚書を中井繊維に返還した。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第三号証、第四号証の一・二、第五ないし第一八号証、第一九号証の一・二、第二〇ないし第二六号証

2  証人米田耕耘、同後藤徳市、同田中智子、原告代表者本人

3  乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一ないし第八号証、第九号証の一ないし三

2  証人三田勝美

3  甲第一ないし第三号証、第四号証の一・二、第五ないし第七号証、第一一ないし第一三号証、第一七号証、第二一号ないし第二六号証の成立は認める(甲第一ないし第三号証、第五号証は原本の存在も認める。)。第一九号証の一は官署作成部分の成立を認め、その余の部分の成立は不知。その余の乙号各証の成立は不知。

理由

一  請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  本件処分は、原告の当期分の申告に商品取引損三六一一万二〇〇〇円と記載して申告していたのを、被告が右損失は原告に発生した損失ではなく、原告の代表者田中康夫個人に発生した損失であるとして、右損失額を否定し、これを原告の当期分の申告所得金額に加算した部分が存在することは当事者間に争いがないところ、原告は右部分に事実誤認の違法がある旨出張するので、以下この点につき検討する。

1  原告の代表田中康夫名義で、昭和四八年七月二日から中井繊維に委託して、神戸ゴム取引所の商品(ゴム)取引を開始し、同年一二月六日に取引を終え、その結果商品取引手数料七三万八〇〇〇円を含め、総計五八〇一万八〇〇〇円の損失が発生したこと(本件商品取引)は当事者間に争いがない。

2  原告は田中康夫の本件商品取引を昭和四八年一一月一日引き継いだ旨出張し、証人田中智子の証言及び原告代表者本人尋問の結果により成立を認めうる甲第一四号証、証人米田耕耘の証言により成立を認めうる甲第二〇号証、証人米田耕耘、同後藤徳市、同田中智子の各証言、原告代表者本人尋問の結果はこれに副うものであるが、以下に述べること等に照らせば、いずれも信用ないし採用することができず、他に本件商品取引を原告が引き継いだことを認めるに足りる証拠はない。

(一)  原告の記帳関係等について

(1) 原告の記帳(総勘定元帳の保証金勘定)による中井繊維に対する委託保証金の支払状況と中井繊維の記帳による委託証拠金預り額を対比すると別表のとおりであり、その両者は異つていること(甲第二号証、乙第三号証、第八号証参照)、また、本件商品取引を清算したことで、中井繊維に対して預託済の保証金(現金)四九六〇万円のほか、清算不足分として現金八四一万八〇〇〇円が支払われているが、右不足分の支払につき、原告の帳簿にその支払を証する記載が存在しないことは当事者間に争いがない。

(2) 次に原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証、成立に争のない乙第九号証の二・三によれば、原告の総勘定元帳の保証金勘定では、昭和四八年一一月五日一四〇〇万円、同月一四日七〇万円、同月二一日三〇〇万円がそれぞれ当座預金から保証金へ支払われた旨記帳されているのに原告の銀行帳では右各支払はいずれも田中康夫への仮払金として記帳されていることが認められる。また、成立に争いのない甲第四号証の一・二によれば、原告の総勘定元帳の預金勘定には、昭和四八年一一月一四日の九三〇万円の出金につき、当初田中康夫への仮払と記載されていたのを、後日保証金と記入し直したことが認められ、弁論の全趣旨によれば、借方仮払金の伝票を、後に借方を保証金として貸方を当座預金等とする振替伝票と差し換えたことが認められる。

(3) さらに、原告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、田中康夫は昭和四八年一一月一日当時本件商品取引の他にも、他人名義等により三口座の商品取引を行なっており、右他人名義等の商品取引についても追加保証金の預託を請求されていたこと、原告の総勘定元帳の保証金勘定で保証金として支出された金員のうちから、右他人名義等の商品取引の追加保証金として支払われた部分もあることが認められる。

以上(1)ないし(3)の事実を総合すれば、原告の総勘定元帳上、保証金として出金されている金員はいずれもその実質は原告の田中康夫に対する仮払金であったと認めることができる。

なお、原告は右(1)の不一致の理由につき原告の反論1のとおり、右(2)の認定事実に対し原告の反論2のとおりそれぞれ反論し、原告代表者本人の供述は大要これに副うもののごとくである。しかし、原告の反論1は、理屈としては筋がとおっているものの、全体としてみれば、いかにも事後辻褄を合わせたとの感じは否めないし、原告の反論2についても、当初たる昭和四八年一一月五日の出金の処理のみ仮払金と誤って記載されたのであればともかく、同月二一日に至ってもなお原告の銀行帳では仮払金として処理されているし、訂正の振替伝票を作成せずに直接振替伝票の差し換えが行なわれているうえ、原告の反論1・2を通じてみれば、原告が昭和四八年一一月一日当時本件商品取引を引き継いだとの明確な認識があったのであれば、もう少し明確な経理・記帳方式がとられてしかるべきではなかったと考えられるのであって、右原告の反論に副う原告代表者の供述部分は到底信用することができない。

(二)  本件商品取引清算前後の事情について

成立に争いのない乙第四・五号証、証人米田耕耘、同後藤徳市、同三田勝美の各証言、原告代表者本人の供述によれば、昭和四八年一二月六日本件商品取引を手仕舞した結果、損失額は五八〇一万八〇〇〇円となり、田中康夫は中井繊維に対し、預託済の保証金を含め、右損失を支払う義務が生じたところ、同月中旬頃、田中康夫は、中井繊維京都出張所に対して、原告宛の領収証と引換えに右損失額を支払いたい旨申し出たこと、これに対し、同出張所は、原告宛の領収証を作成できるかどうかは本社と協議しなければ決せられないから、とりあえず田中康夫個人宛の領収証と引換えに右損失を支払ってもらいたい旨回答し、同月二五日田中康夫宛の金額五八〇一万八〇〇〇円の商品先物取引帳尻金領収証を交付し、右損失額の支払を受けたこと、その後、右出張所は本社を通じて協議した結果、原告宛の領収証は発行しないことになり、そのかわり、昭和四九年三月上旬頃原告の要望するところに従い、昭和四八年一〇月三一日までの損失分二一九〇万六〇〇〇円と同年一一月一日以降の損失分三六一一万二〇〇〇円とに分けた二通の領収証を作成して、原告(田中康夫)に交付し、前記五八〇一万八〇〇〇円の領収証を回収したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

この点につき、原告は昭和四八年一一月一日当時既に本件商品取引を原告が引き継いだ旨中井繊維に伝えており、これを受けて、本件商品取引終了後原告宛の領収証の発行を要求したのである旨主張(原告の反論4参照)し、前記甲第二〇号証、証人米田耕耘、同後藤徳市の証言、原告代表者本人の供述はこれに副うものである。しかし、右甲第二〇号証は、本件訴訟で初めて提出されたものであり、それ以前国税不服審判所や被告に提出されていないこと(このことは原告代表者本人の供述によって認める。)、中井繊維と記入された事務用便箋がある(甲第一九号証の二、乙第四号証)のにもかかわらず、それを使用せず、一般の便箋で作成されていること等に照らせば、本件訴訟のため後日作成された可能性が強いこと、また、成立に争いのない乙第四号証、証人三田勝美の証言によれば本件処分の意議申立を担当した国税調査官三田勝美が、昭和五〇年五月二日、中井繊維京都出張所へ赴き、所員後藤徳市らに本件商品取引の詳細を質問したところ、同人らは「田中康夫から本件取引終了後の昭和四八年一二月中旬頃、原告との取引にしてもらいたい旨の申し出があった。」と答えているものの、本件商品取引終了以前に、原告から本件商品取引を引き継いだ旨の申し出があったとは述べていないことが認められる(右認定に反する甲第一九号証の一・二、証人後藤徳市、同米田耕耘の各証言部分は容易に信用できない。)こと等に照らせば、原告主張に副う前記各証拠も容易に信用できず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。

(三)  議事録(甲第一四号証)について

原告は本件商品取引の引き継ぎは原告の理事会で決定されたものである旨主張するから、この点について検討するに、成立に争いのない甲第二五号証、原告代表者本人の供述によれば、当時理事の一人であった田中芳江(田中康夫の母)は病気入院中であったところ、本件商品取引終了後の昭和四八年一二月一二日死亡したこと、同人は死亡直前まで意識が明瞭であったことが認められ、理事会議事録(甲第一四号証)中の田中芳江の署名が自筆であったとしても、そのことから直ちに、本件商品取引終了以前に作成されたものであるとは言い切れないうえ、前記(一)(二)記載の数々の疑問点が存することに照らせば、前記甲第一四号証(議事録)及びその作成に関する証人田中智子の証言、原告代表者の供述部分は到底採用することができない。

3  右1・2に述べたことを総合すれば、本件商品取引を原告が引き継いだ事実は存在せず、本件商品取引によって昭和四八年一一月一日以降に発生した損失三六一一万二〇〇〇円は田中康夫個人に発生した損失であって、原告に発生した損失ではないと認めるのが相当である。

従って、本件処分のうち、原告の当期分の申告書中の商品取引損三六一一万二〇〇〇円を損金に算入することを否定し、これを原告の申告所得金額に加算した部分は何ら違法なところはなく、原告は他に本件処分の違法性について何らの主張もしていない。

三  以上の次第で、原告に対する当期分の被告の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(いずれも異議決定による一部取消後のもの。)は適法であること明らかであり、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田坂友男 裁判官 東畑良雄 裁判官 森高重久)

別表

保証金の支払状況(自昭和48年1月1日 至昭和48年12月31日 委託者番号1924)

<省略>

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